ネコ皮質視覚野2/3層から5層への興奮性シナプス入力の伝達機構を検討するため、スライス標本を用いて実験を行った。2/3層を電気刺激しこれにより5層ニューロンに誘発される興奮性シナプス後電位(EPSP)は次のような性質を示した。 1)平均潜時3.4msecで速い上昇相と遅い上昇相成分から成っており、刺激強度の変化によって潜時の変動は見られなかった。 2)速いEPSP成分はCNQX(非NMDA型特異的拮抗薬)の潅流液中投与で消失しAPV(NMDA型特異的拮抗薬)の投与には影響を受けなかった。遅いEPSP成分はCNQX投与に抵抗性を示し、Mg^<++>非存在溶液で強く増強しAPV投与で消失した。 3)細胞体近傍部へNMDAを電気泳導的に局所微量投与したところ低濃度Ca^<++>高濃度Mg^<++>溶液下でも細胞は強く興奮し、APV投与でその反応は抑制された。 4)膜電位固定法で遅い成分に対応するEPSCを記録すると、これは膜電位を脱分極側へ移動すると増大し、NMDA型受容体を介するシナプス電流と同じ性質を示した。 5)圧入による5層ニューロン細胞体近傍部へのCd^<++>イオン(シナプス伝達阻害剤)微量投与は速いEPSPと遅いEPSP成分両方を同時に消失させた。 6)2/3層内を皮質表面に平行に刺激電極を移動する時に記録されるEPSPでは、速い成分は記録ニューロン直上部近辺(250μm以内)の刺激に対して記録され、遅いEPSP成分は直上部から750μm離れた部位の刺激に対しても記録された。 以上の結果から速いEPSP成分は5層ニューロン直上部近辺(250μm以内)の2/3層から5層ニューロン上の細胞体近傍部の非NMDA型受容体を介する単シナプス性のものであり、遅い成分は2/3層の直上部及び広い範囲(750μm以上)から入力を受けるが、少なくとも直上部からの入力は5層ニューロン上の細胞体近傍部に存在するNMDA型受容体を介する反応と考えられる。
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