人工現実感技術は運動視差を伴った立体映像により仮想の情景を提示し、その中で行動したり、仮想の物体を操作したりする環境を提供する。良好な現実感を得るには運動視差の表現や操作に対する応答などに高い実時間性が要求されるが、現状では十分な性能が得られていない。 工業デザインや彫刻・陶芸などの作品の創作を仮想環境で行うことができれば、試行錯誤的評価が実環境で行うよりはるかに容易で、試作品の記録や創作過程のreversionなどが自由に行えるなど、作業効率の向上が期待できる。このような仮想作業環境を提供するために、実用的な視覚仮想環境生成装置の実現、触覚伝達機能を有する仮想物体操作装置の実現などを目指した。 視覚仮想環境生成については、複雑なシーンや自由形状物体に対して良好な運動視差表現を実現する方法を確立する必要がある。オペレータの両眼の位置を定期的に計測し、その視点から見えるシーンを50ミリ秒以内にスクリーンに表示する。そのために、PSDを用いた両眼位置の高速計測装置と複雑なシーンの良好な運動視差を表現するための高速グラフィックス・プロセッサの開発を行った。 実空間側から仮想空間に直接アクセス可能な仮想物体操作装置の開発も重要である。これまでに、仮想空間を三次元的に移動可能なカーソルを利用した幾つかの方法や、実際の手の動きを仮想空間に伝えるデータグローブなどの様々な方法が考えられていたが、直接的な操作感覚が得られないこと、座標指示精度、操作精度、操作機能などが十分でないことなどの問題があった。これらの問題の解決法として、特殊な構造の仮想物体操作用三次元スタイラスを開発した。仮想物体の精密な操作には触覚生成が必要であり、開発した三次元スタイラスの特徴を利用して、複雑な仮想物体に対する実時間接触判定と触覚生成にも成功した。
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