研究概要 |
実験には無麻酔・除脳ネコを用いた。ハロセン麻酔下で上丘の前縁と乳頭体の後縁とを結ぶ面に沿って外科的に除脳した後、脳定位固定装置に固定し四肢をトレッドミル上に置いた。歩行運動は中脳歩行誘発野(MLR)へ微小電極を刺入し、連続微小電気刺激を加えて誘発した。呼吸リズムは横隔膜の筋活動で評価し、歩行リズムは後肢腓腹筋の筋活動で評価した。数頭の動物では両側迷走神経を切断し、気胸を行い、ギャラミンを静脈内に注入することによって不動化した。心電図(ECG)を導出・記録して心拍リズムを評価した。 まず、自発呼吸下にある除脳ネコの安静時における心拍リズムゆらぎのスペクトル解析を行った。スペクトル中には平均呼吸周波数に対応した明確なピークが存在し、心拍リズムゆらぎと横隔膜筋活動間のコヒーレンスにおいても平均呼吸周波数に対応したコヒーレンスピークが存在した。このことは、この状態では心拍リズムが呼吸リズムによって強く変調されていること(呼吸性不整脈,RSA)、すなわち心拍と呼吸リズム間の結合(cardio-respiratory coupling,C‐R coupling)が強いことを示している。しかし、歩行運動時においてはこのC‐R couplingは減弱した。次に、両側の迷走神経を切断した安静状態では、切断前と比較してC‐R couplingは著しく減弱した。この状態で歩行運動を誘発すると、切断前とは逆にC‐R couplingが増強し、C‐R couplingに対する歩行運動の影響が迷走神経の切断によって逆転した。ギャラミンを静脈内に注入して不動化した動物では、心拍リズムが人工呼吸器の換気リズム、横隔神経の発射活動で評価した中枢性の呼吸リズムばかりでなく、後肢の外側腓腹神経活動で評価したfictive locomotionのリズムによっても変調されていた。以上の結果に基づき、3つの内因性神経振動子間の機能的階層構造に関するモデルを構築した。
|