初年度の研究に引き続きづき、以下の問題を検討した。(1)広帯域信号の中のDC成分の取扱い、(2)数ミリ秒以下の継続時間のパルス性信号の取扱い、(3)解析周波数の上限の拡大、(4)相互相関における必要ビット数の定量化、及び(5)テレメトリー伝送データ圧縮法。 以上の問題にたいする対処法が理解できたので、本年度の研究ではその応用として火星の電磁圏探査の場合における具体的な課題を調査し、それに対応するハードウェアーのシステム構成を考案した。まず、火星探査において電磁波動計測が貢献する物理的な問題点を整理した。また、磁気圏においてDC電場波形がどのようにして観測され、どのように信号処理すべきかという問題を、あけぼの衛星データ解析によって示した。 次に、小数ビット相関法の極端な場合の応用として、1-ビット相関法によるスペクトル分析法を実験的に調べ、この方法により火星の電磁気圏波動の解析に利用できる可能性を確認した。これにより、従来のフィルタ・バンク方式や掃引型分析法の他に、小数ビット相関法も1つの有力な手段であり、特にペイロードの制約が著しく厳しい場合には有効であるということを示した。 宇宙科学研究所は火星探査機を1996年に打ち上げる計画を決定し、1992年4月よりプロトモデルの設計が始められた。筆者らは、低周波プラズマ波動計測機の塔載を提案し研究グループを組織した。当初、波動受信機へのペイロードの割当ては確定しておらず、設計においてはいくつかの異なるペイロード条件下における機器の構成を検討した。そしてペイロードの制約によっては、本研究の1-ビット相関法によるスペクトル計測を採用することを考慮した。本研究の過程で考察した超低周波波動の信号処理法、データ圧縮法、スペースプラズマ中の広帯域センサーの構成法などの諸点は、宇宙研の火星探査機の設計に生かされている。
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