従来からSEMに対する要求としてはその高倍率化に主眼がおかれ、その最高分解能としては約0.5nmが達成されている。しかし、SEMの持つ高い分解能以外の多くの特徴を生かすためには現在の形式が最もふさわしいとは限らない。現在普及している電磁偏向、電磁集束に基づいた電子光学系では、磁性体の持つヒステリシス特性や磁化の遅れの影響はSEMを用いた計測や画像解析に大きな影響を及ぼしている。これに比較して、静電界を用いた偏向や集束を行うと、高速でヒステリシス特性もなく消費電力は小さく非常に軽量となり、持ち運びも可能となる。このような静電界型の電子光学系を持つSEMは、より高倍率をめざす発展の中では工作精度、絶縁破壊などの問題のため製作されなくなっていったが、低加速電圧の場合や用途の限られた分野においてその大きな特徴を生かすことは可能である。特に、計算機との結合においては、高速で繰り返し精度の高い静電型が従来の電磁型よりSEMを構成するには適しているのではないかと考えられる。本研究はこのような静電型SEMの開発を目的としている。まず、(1)真空系、(2)電子銃の構成、各電極への印加電位、スリットの挿入位置などの電子光学系、(3)フォトダイオードを用いた反射電子検出、(4)電子ビームの走査系、信号画像処理系のハードウェア、ソフトウェア、インターフェイスなどの設計及び製作を行った。製作した静電型SEMを使用して、加速電圧とビーム電流との関係、SEM画像を得るためのパラメータを示した。実際に画像を取り込んだ画像も示し、結果の考察を行った。また、より高精度高分解能のSEMを目指して電子軌道の数値計算から新しい電極配置を提案した。最後に、SEMで得られる信号コントラストの理論的な計算を行い、その原因となるものの寄与を定量的に押さえ、試料表面の三次元形状を逆に見積もることの可能性について示した。
|