研究概要 |
明治〜昭和戦前期に建造され、かつ、現存している近代土木構造物の調査を、中部5県(愛知・岐阜・三重・長野・静岡の中部5県)について実施した。調査は、アンケート、既存の資料、県など管理者の施設台帳の3種類の情報源を対照に、平成3年6〜11月と平成4年同期の2回に分けて実施した。アンケートは5県の451の市町村の土木課と教育委員会をはじめ、土木構造物を所有する電力・鉄道などの諸機関に依頼し、回答として1300件(重複を含む)のデータを得た。これに台帳データ 602件、資料データ 78件を加えた1980件が全データとなった。土木構造物の評価には現地調査が欠かせないため、収集データから重複、時代・対象の不適合なものを取り除いた1100件余を調査対象構造物とした。現地調査は、平成5年2月末までに1082ヶ所について実施した。 現地調査を実施した構造物については、写真で記録した上、入手可能な資料を集めた上で、平成4年2月に暫定的に導入した「近代土木構造物の評価基準(6評価軸,加減点法)」により、重要度を判定した。結果的には、(1)中部5県を代表する近代土木遺産(将来の分化財候補)27件、(2)重要度の高い土木構造物88件、(3)重要度は高くないがそれなりに立派な土木構造物 200件弱を選定することができた。また、先の評価基準では曖味な点もあったので、平成5年2月には全データの4割を占める道路橋について、技術評価基準を作成し客観的な評価を可能にした。 本調査研究により中部5県について近代土木構造物の所在が確定し、相対的評価が行われたことは、今後予定されている土木学会・土木史研究委員会による全国調査、ならびに、文化庁の近代化遺産の調査を進めるにあたり貴重な情報となろう。また、現実の構造物に対しても、保存するか更新するかを判断するための基準を与えることから、「本当に良い」近代土木遺産を次世代に残していく道を開いた。
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