本研究では、現在特に被害が深刻で、しかも確実な補修工法が見い出せないでいるプレストレストコンクリート(以下、PC)構造物の塩害に対して、その補修工法としての電気防食法の適用性を検討した。 ここではまず、電気防食法をコンクリート構造物に適用する場合の電気防食基準に関して、現在最も汎用性が高いと考えられている電位シフト基準を取り上げて検討を行った。その結果、通電によってコンクリート中の鋼材に生じる分極量が100mV以上あれば、鋼材に対する防食性はある程度確保できることを確認したが、この条件は鋼材腐食を完全に停止させるものではなく、また、コンクリート内外の環境の変化によって防食条件も変わるため、防食の確実性を考慮したより安全な防食設計が必要であることも確かめられた。 次に、PC部材へ電気防食を適用性した場合に予想される過防食の問題を中心に検討を加えた結果、PC部材において過防食となると、鋼材周辺に発生する水素の影響によって、(1)PC鋼材の強度劣化が生じること、(2)コンクリートにひびわれが発生する場合もあることなどを明らかとした。一方では、通常の通電条件が確保されている場合には、電気防食がPC構造物に対しても極めて有効な方法となることを確認し、PC構造物においては、いかに過防食とならないような防食条件を設定できるかが重要となることが明確となった。 さらに、鉄筋腐食劣化の生じた構造物に対して電気防食による補修試験施行を実施した結果から、(1)コンクリートの乾燥状態が比較的長く続く場合でも、電気防食は十分にその防食性を発揮できること、(2)劣化部の下地処理の程度によって電気防食の補修効果が異なること、などが確認された。また、電気防食における陽極システムの施工の簡略化を図る目的で、永久型枠式陽極の開発を行い、これが十分に利用可能であることも確認した。
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