研究概要 |
本年度は,研究代表者の提案した静的ならびに動的粒状要素法により土石流のシミュレーション解析を行うとともに,昨年度開発した固有変形解析手法を併用することにより,流動化のメカニズムの考察を行った. まず,静的解析は,周期境界内にパッキングされた円形粒子集合体がどの斜面傾斜角度まで安定的に静止できるかを調べた.斜面と粒子の間の摩擦角は粒子間の摩擦角より大きくとり,すべりが粒子間で生じるようにした.その結果,粒子間の噛み合せにより,限界傾斜角は粒子間摩擦角より大きくなった.この解析において得られた限界傾斜角以下の斜面の場合について,上流側における急激な降雨により斜面に沿う浸透層から斜面垂直方向に動水勾配が生じた場合の解析を行った.水の影響は浮力および浸透水力として評価した結果,傾斜角に応じた水位に対して,水のない場合と異なった不均一なモードで流動がはじまることが分かった.これは流動化の発生原因の一つと理解することができよう. つぎに動的解析においては,静的解析と同様,斜面上の周期境界内の円形粒子集合体を対象とした.斜面を一定速度で傾斜させた場合,粒子集合が安定状態から遷移状態,流動状態と変化する様子を配位数の変化として捉えることができた.また,流動を開始した状態における各粒径毎の変位ベクトルは最大粒径の粒子が上向きとなることがわかった. 固有変形解析をパッキング初期状態および流動開始状態について行った結果,固有値の分布は後者の場合より小さな値をもつ結果が得られた.このことは,流動化を剛性行列の固有値分布により定量化できることを示唆している.すなわち,液体の固有値は殆ど全てが零であるのに対して,安定な固体は零固有値をもたない.固体から液体に相変化する問題を本研究のように剛性行列の固有値分布として捉える手法は土石流など現象の解明に新たな知見を加えるものになると考えられる.
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