海域に流入する河川プルームの拡がりは運動量流束、河川水と海水との密度差に起因する浮力流束と水面勾配に支配される。また海域での流動や密度構造、さらには河口近傍の地形形状が河川プルームの挙動に影響を及ぼすことから、本研究では自由水面を有した三次元密度流数値モデルの新たな構築を行った。特に着目した点は、従来経験的な判断に委ねられていた成層効果を定量的に評価するために、蓄積してきた三次元数値実験結果に基づいて渦動粘性・拡散係数に最適な成層化関数の導入を図ったことである。その結果、提案モデルが表層放流密度流の三次元的拡がりを十分な精度で予測できることが確認できた。 提案モデルによる数値実験結果は、小さな密度フルード数の河川プルームを対象とした水理実験、明石川での現地観測、淀川洪水流の熱映像画像等と比較された。その結果、河口付近で観測される河川プルーム特有の一時加速現象や河川水塊の分岐現象、そしてリフト・オフ現象の物理機構が明らかになった。 一方、河川水の拡がりがロスビー変形半径を越えると、浮力に加えて地球の回転効果が作用することになり、河川水に地衡流調節が働く。つまり、北半球では河川水の沖合い方向への拡がりは抑制されて、右手方向に偏向される。その結果、淀川洪水流はコースタル・ジェットを形成しながら、神戸沖を拡がり、また淡路島沿いに南下することが確認された。数値実験で得られた密度場は台風8210号の洪水時に人工衛星NOAAが撮影した熱映像画像とよく一致することが分かった。しかしながら、潮流のある場合には、潮流の流速と密度流としてのフロントの伝播速度の大小関係によって河川水の挙動は異なる。潮流が勝る場合には、河川水は潮流による移流効果により大阪湾全域に拡がった後では、密度流的な特性は薄れて潮流系に支配された拡がりを呈する。
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