本研究では、社会資本投資、知識基盤投資が産業構造の短期的・長期的変動過程に及ぼす影響を把握するための実用的な地域動学モデルを開発した。従来より、一般的衡理論に基づく多部門成長モデルに関しては数多くの研究事例がある。中でもレオンティエフ等による動的IOモデルは代表的な分析モデルであり、その実用化の方法論に関しても研究の蓄積がある。産業連関分析における投入産出係数・資本係数の動的安定性については種々の批判的検討がなされてきた。さらに、これらの係数の固定性を克服するために種々の研究が積み重ねられてきた。しかしながら、企業の研究開発活動を明示的に考慮しながら、産業構造の変動を内生的に説明しうるような地域動学モデル(動的IOモデル)に関する研究はほとんど進展していないのが実情である。本研究では、技術革新による産業構造の変動を内性化したような実用的な多部門地域動学モデルの開発を試みたものである。このうち初年度では、このような投入産出係数の変化に関するミクロ経済学的分析を試みた。その結果、技術変化を内生化した地域動学モデルは高度の非線形性を有するために、動学モデルの安定性に関する検討が不可欠であることが判明した。このような安定性の検討に関してはモデルが複雑になればシミュレーションに頼らざるを得ない。そこで、当該年度ではシミュレーション分析を通じて動学モデルのプロトタイプモデルを作成するとともに、その動的安定性に関して数値実験を試みた。その結果、従来の前方ラグ型の動的IOモデルでは動的IOモデルが不安定な挙動を示すことが判明した。一方、動的IOモデルを後方ラグ型に再定式化することにより、安定的な成長経路が得られることが明らかとなった。また、以上で開発したモデルにより知識基盤整備が産業連関構造の変動に及ぼす影響を動的に追跡することが可能となった。
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