1.研究目的 有機金属化合物を原料とする化学気相析出法であるMOCVDによって各種の組成と構造を持つ人工不働態皮膜を作製し、皮膜の組成・組織・構造と耐食性との関係を明らかにすることを目的とする。 2.研究成果 (1)耐食性に及ぼす成膜温度の影響:前年度の研究によって同一の成膜温度(350℃)におけるAl_20_3とTi0_2の耐食性はZrO_2およびTa_2O_5に比べて劣ることが分かった。そこで、Al_2O_3とTiO_2の成膜温度を550℃まで上昇させて耐食性の変化を関係を調べた結果、成膜温度が高いほど耐食性は増加するが、Ta_2O_5やZrO_2ほどの高耐食性は得られないことが判明した。また、SiO_2薄膜を作製して耐食性を調べた結果、5M-HCl溶液中ではZrO_2と同程度の耐食性を有することが分かった。 (2)Ta_2O_5-ZrO_2複合酸化物薄膜の合成と耐食性の評価:前年度の研究によってHCl溶液中ではTa_2O_5、NaOH溶液中ではZrO_2がそれぞれ最高の耐食性を発揮することが分かったので、両酸化物を複合した薄膜を作製し、HClおよびNaOH溶液中での耐食性と皮膜組成の関係を調べた。その結果、Ta(V)カチオン分率0.3〜0.5のTa_2O_5-ZrO_2薄膜は5M-HClおよび5M-NaOH溶液の両方に対して最も良い耐食性を示すことが分かった。 (3)人工不働態皮膜を被覆した純Feおよび304ステンレス鋼の耐食性:純FeおよびSUS304鋼上にSiO_2薄膜を形成し、1M-HCl中における活性化時間とアノード分極曲線を測定した。その結果、SiO_2薄膜の厚さを増すほど、また成膜温度が高いほど耐食性は向上することが分かった。
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