本年度は、各種組成のTiーNi合金を、電子ビ-ム溶解法および高周波溶解法により作製し、各種加工熱処理を施した後。疲労寿命測定を行なった結果、疲労寿命に及ぼす熱処理条件、試験温度の影響を明らかにした。 Tiー50.8at%Ni合金を、試験温度がそれぞれ433K、363K、333Kで、引っ張り変形を繰り返すことにより疲労寿命を評価した。まず、一般的な傾向としては、応力と疲労寿命の関係は2本の直線で表すことが出来た。低疲労寿命域は超弾性変形をくりかえした場合に対応し、高疲労寿命域は母相の弾性変形に対応していた。次に、試験温度の効果としては、温度が高いほど2本の直線の交点は高応力側へ移動した。移動の仕方は、超弾性変形に対する寿命はほとんど変わらないが、弾性変形に対する寿命直線は高応力側へ移動した。 熱処理条件の影響を調べる目的で、上と同一組成の試料に次のような2種類の熱処理を施した場合の疲労寿命を調べた。すなわち、(1)冷間加工後、673Kで1時間焼鈍処理、(2)1273Kで1時間溶体化処理後、673Kで時効処理をそれぞれ施した。その結果、前者が後者よりも約一桁高い寿命を示した。この理由は、前者の試料には高密度な転位と析出物が共存するのに対して、後者には析出物のみしか存在しないため、内部組織としては、前者の方が強固であることと、繰り返される変態ひずみが小さいことによると考えられる。 試料作製条件の効果としては、電子ビ-ム溶解法と高周波溶解法について比較した。前者の方法で作製した試料は高純度であり、大きな酸化物や炭化物が含まれていないため、疲労亀裂の発生を抑えられると考えられるので、高疲労寿命が期待された。しかし、結果は、両試料で寿命は変化しなかった。疲労寿命をさらに改善するためには、この理由を明らかにする必要があり次年度の研究課題とする。
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