本研究では、Ti-Ni形状記憶合金のき裂の発生及び伝播の機構等の疲労特性を解明することにより、使用中の信頼性を高めるための材料開発の指針を得ることを目的とする。 高周波真空溶解法により作製されたTi-50.8at%Ni合金溶体化処理材の疲労き裂は、炭化物を起点にして発生していることが判った。ところが、同様の方法で作製したTi-50.0at%Ni合金と電子ビーム溶解法で作製したTi-Ni合金では、いずれもき裂は炭化物からは発生しなかった。この理由は、前者の場合には、低Ni濃度であるためすべり変形が容易に起こり、炭化物の周りの応力集中を緩和することにより、炭化物周りでのき裂の発生を抑えたと考えられる。後者の場合には、大きな炭化物がないため、き裂は炭化物からは発生せず、粒界から発生した。粒界でき裂が発生した場合でも、疲労寿命は増加しなかった。このことから、疲労寿命を増すためには、純度を上げると炭化物を少なくするたけでは不十分で、集合組織等により粒界での発生も抑えることが重要であると結論できた。 き裂の伝播速度を調べた結果、試験温度に強く影響を受けることが判った。すなわち、Ms点以下では、伝播速度は極めて遅く、一般材料に対して適用できる経験式で得られる結果よりも二桁低い値であった。Ms点以上では、伝播速度は、試験温度の増加と共に速くなり、ある温度以上では、伝播速度は試験温度に依存せず一定値となる。これは一般材で予相される値に近いものであった。この理由は、マルテンサイトが応力誘起されても、高い応力であるため有効に応力緩和の機構として働かないためである。一方、Ms点以下の試験温度では、変形は低応力で容易に起こり、伝播速度を効果的に遅くしたものと考えられる。以上の結果、形状記憶合金の疲労特性が理解でき今後の材料開発の方向が示された。
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