各種組成のTi-Ni合金を、電子ビーム溶解法および高周波溶解法により作製し、疲労寿命測定、疲労き裂の発生および伝播の観察を行なった結果、以下のような結論を得た。 (1)応力と疲労寿命の関係は2本の直線で表すことが出来た。低疲労寿命域は超弾性変形をくりかえした場合に対応し、高疲労寿命域は母相の弾性変形に対応していた。 (2)疲労寿命に対する試験温度の効果としては、温度が高いほど2本の直線の交点は高応力側へ移動した。移動の仕方は、超弾性変形に対する寿命はほとんど変わらないが、弾性変形に対する寿命直線は高応力側へ移動した。 (3)熱処理条件の影響を調べる目的で、次のような2種類の熱処理を施した場合の疲労寿命を調べた。その結果、冷間加工後673Kで焼鈍下試料が溶体化処理して時効した試料よりも約一桁高い寿命を示した。 (4)電子ビーム溶解法で作製した試料と高周波溶解法で作製した試料の疲労寿命はほとんど同じであった。 (5)き裂の伝播速度を調べた結果、試験温度に強く影響を受けることが判った。 (6)高周波真空溶解法により作製されたTi-50.8atNi合金溶体化処理材の疲労き裂は、炭化物を起点にして発生していることが判った。ところが、電子ビーム溶解法で作製したTi-Ni合金では、き裂は炭化物から発生せず、粒界から発生したが、疲労寿命は変化しなかった。このことから疲労寿命を増やすためには、純度を上げて炭化物を少なくするだけでは不十分で、集合組織等により粒界での発生も抑えることが重要であると結論できた。以上の結果、形状記憶合金の疲労特性が理解でき、今後の材料開発の方向があきらかになった。
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