透明導電性薄膜は中性環境中で用いられることが多いと考えられるため、NaCl水溶液中でのITOおよびITO/Ag^-対の電気化学的、光電気化学的性質および腐食挙動を調べた。室温0.3〜20%NaCl水溶液中で測定したITOの分極曲線によると、アノード枝は光照射の有無のみに依存し、入射光が強いほど電流密度が大きくなった。これに対してカソード枝は光照射の有無だけでなく、溶存酸素量にも大きく依存した。また、純Ag板とITOとをカップリングさせた場合には、通常、ITOがカソードに、Agがアノードになって、Agが腐食することがわかった。その腐食電流はNaCl濃度が高いほど、光の強度が強いほど溶存酸素量が多いほど大きくなった。しかし、特定の条件下で作製したITOをAgとカップリングさせると、光照射下・脱気した低濃度NaCl水溶液中において、ITOがアノードに、Agがカソードになり、Agをカソード防食しうることがわかった。しかもITO表面での反応が水の酸化(H_2O→1/2O_2+2H^++2e^-)であって、ITOそのものの溶解あるいは劣化を伴わないことから、非犧牲カソード防食の可能性を見出した。そこで、オンセット電位(光照射下でアノード電流が流れ出す電位、ITOでは〜OmV・SCE)におよぼすITOの組成、熱処理条件あるいは膜厚などの影響を調べたが、Agを安定してカソード防食しうる十分卑なオンセット電位は得られなかった。ITOと同じn型半導体でそれよりオンセット電位が低く、かつ化学的にも安定なTiO_2に着目し、これを光透過率を損わない程度の厚さでITO上にコーティングした。このオンセット電位は-500mVまで卑化した。また、Agとカップリングさせたところ、Agがカソード防食されていることを確認した。
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