ITO-Ag対の腐食挙動を調べたところ、通常ITOがカソードに、Agがアノがアノードとなって、Agが腐食することがわかった。腐食電流(カップル電流)は、光の強度が強いほど、溶存酵素量が多いほど、Nacl濃度が高いほど大きくなった。腐食電流値は1μA1cm^2以下であるが、Ag膜の厚さが20nm程度であることを考えれば、無視できない大きさである(数日から数週間でAg膜は溶解してしまう)。こうした中で、特定の条件下ではITOがアノードとなって、Agをカソード防食できることがわかった。ここでITO表面でのアノード反応は水の酸化(H_2O→1/2O_2+H^++2e^-)であって、それ自身の溶解あるいは劣化を伴わないため、この防食効果は非犠牲的であることが期待できる。しかし、ITOの作製条件、熱処理条件を変えたが、Agを安定的にカソード防食できる十分卑な電位は得られなかった。そこで、ITOと同じn型半導体であり、フラットバンド電位(バンド構造が平坦になる電位)がITOより卑であるT_iO_2を、光透過率が影響を受けない程度(30nm)ITOの上にコーティングさせた。T_iO_2のオンセット電位(光照射下でアノード電流が流れ出す電位)は-500mV.SCEとITOのそれ〜0mVに比べかなり卑化した。Agの浸清電位は0.3%NaCl中で〜0mV、25%NaCl中で-160mVであるので、T_iO_2によってAgをカソード防食できることになる。T_iO_2とAg板とをカップリングさせたところ、Agにはカソード電流が流れ、カソード防食できていることを確認した。T_iO_2のオンセット電位が-500mVとかなり卑なこと、およびT_iO_2が化学的にも安定であることから、T_iO_2が他の金属材料についても、非犠牲アノードとして採用できる見通しが得られた。
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