研究概要 |
高温用金属材料の耐酸化性は表面に生成した酸化皮膜の剥離を抑制することが最も重要な因子である。従来より希土類元素を少量合金に添加すると酸化皮膜の密着性が著しく向上することが知られているが,その機構に関しては未だ明らかにされていない。本研究ではCr_2O_3を保護皮膜として生成する合金系におけるイットリウム(Y)の効果を明らかにすることを目的として,YCrO_3の熱力学的安定性と格子欠陥構造を調べた。すなわち,YイオンおよびCrイオンを含む混合硝酸塩水溶液の滴下熱分解法によりYCrO_3を合成し,YCrO_3の標準生成自由エネルギ-および高温電気伝導度の酸素分圧依存性を測定した。 YCrO_3の標準生成自由エネルギ-の決定は,まずイットリウムイオン導電体と考えられる燐酸イットリウムを固体電解質としたPt,Y_2O_3,O_2/YPO_4/YCrO_3,Cr_2O_3,O_2,Ptで表されるイットリウム濃淡電池の起電力を測定しY_2O_3+Cr_2O_3→2YCrO_3なる反応の標準自由エネルギ-変化を△G°/kjmol^<-1>=-1.69×10^2+5.32×10^<-2>T(1202K〈T〈1414K)と求めた。つぎに,既報のY_2O_3およびCr_2O_3の標準生成自由エネルギ-の値からYCrO_3の標準生成自由エネルギ-を求めた。YCrO_3の格子欠陥構造は無添加およびCa添加YCrO_3の電気伝導度を1273Kから1473K,10^5Paから10^<-5>Paの酸素分圧下で交流インピ-ダンス法および直流4端子法により測定することにより検討した。その結果,無添加YCrO_3においてはイットリウムイオンの空孔は酸素分圧にほとんど依存せず原子比で10^<-3>であり,クロムイオン空孔および酸素イオン空孔はそれに比べて1桁以上小さいが,前者は高酸素圧側で後者は低酸素分圧側で増加することを明らかにした。 以上の知見から,酸化クロム皮膜の生成機構をYCrO_3の安定性および欠陥構造との関係から検討し,皮膜の密着性に関する機構を提案した。
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