Fe、Cr、Niの金属単体の粉末を2相ステンレス鋼相当組成のFe-25%Cr-8%Niに秤量、混合し、MA過程での組織変化、およびその固化成形体の2相分離挙動について検討した結果、以下の結論を得た。 1)MA時間の経過とともに、原料粉末は微視的鍛造、破片化、および冷間圧接すなわちKneadingが進み、最終的に比較的粒径のそろった等軸状の微細粒子へと変化する。元素の分布状態は、360ks MA処理の段階では、NiはほぼFe中へ固溶し、CrはFe中に固溶あるいは超微細に分散した状態で存在する。 MA粉末成形体中に形成されるクロム酸化物(Cr_2O_3)は固化成形のための加熱段階で形成されはじめ、その後の焼鈍過程で徐々にその量が多くなる。この酸化物の生成はまず粉末表面で起こり、次第にCr粉末の内部方向へ進行して、元Cr粉末の存在した部分に細かい粒状のクロム酸化物が凝集した形態をとる。また、その形成反応が完了する時間は当然Cr粒の大きさに依存しており、360ks程度のMA処理を施した粉末成形体中では、Crの分散が非常に微細なため、酸化物の形成は固化成形のための加熱のごく初期段階で完了するものと思われる。 2)360ksMA粉末成形体の組織の形成過程にはCr_2O_3が大きく関与する。このクロム酸化物(Cr_2O_3)は、MA処理時間が短かい粉末の成形体中では粗大な介在物として存在し、ピン止め効果はほとんど期待できず、逆に組織に悪影響を及ぼしていると考えられるが、360ks MA粉末成形体中では同素変態したγ相の結晶粒をピン止め(粒成長の抑制)することによりγ粒を微細化し、この微細なγ粒からδ相が生成してさらに微細な2相組織が得られることがわかった。 本鋼種の相分離は、MA処理をしていない粉末の成形体および比較的短時間(3.6ks〜108ks)のMA粉末成形体では焼鈍初期に層状に偏析したNiからγ相が生成するという過程をとるが、MA時間が長い360ksMA粉末成形体ではα(bcc)→γ(fcc)の同素変態ののちに(δ+γ)2相に分離するという過程をとることがわかった。
|