セラミック溶射皮膜の熱疲労特性を明らかにするためには、まず溶射による残留応力特性および熱疲労試験中に発生する熱応力特性を明らかにしておく必要がある。そこで本年度は溶射による残留応力におよぼす溶射条件の影響および熱疲労試験中に生じる熱応力におよぼす試験片寸法の影響を検討し、以下の結果を得た。 1.母材板厚が厚いほど母材残留応力は小さく、皮膜の平均引張残留応力は大きくなる傾向にあるが、母材板厚が皮膜の10倍以上では皮膜に生じる残留応力はほぼ一定値となる。そしてその値は溶射時の母材と皮膜の温度差に大きく影響されることが明らかになった。 2.ショットグラストによる初期の残留応力は、溶射終了時の皮膜および母材表面近傍の残留応力(いわゆる皮膜の剥離に影響する残留応力)にほとんど影響しない。そのため熱疲労剥離特性を検討する際には、ショットグラストによる初期の残留応力については考慮する必要がないことが明らかとなった。 3.熱疲労サイクルを受けたときに溶射材端部に生じる熱応力のパラメ-タ整理を行い、生じる熱応力の一般特性を明らかにすることが出来た。そして熱疲労試験中に溶射材端部に生じる熱応力におよぼす溶射材寸法の影響を明らかにした。これによれば熱応力は皮膜厚さに比べて母材厚さが厚いほど、また溶射材寸法が大きくなるほど大きくなる。しかし母材厚さが皮膜厚さの4倍以上、溶射材の寸法が皮膜厚さの8倍以上となると生じる熱応力は一定値となる。したがって熱疲労試験片をこの条件を満たす寸法で製作しておけば実用溶射材の熱疲労条件と一致さすことが出来る。
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