高温高硬度溶射皮膜を開発するため、ホウ化物系サーメットの減圧プラズマ溶射皮膜を作製し、主としてホウ化物粒子とバインダ金属との濡れ性・反応性に着目して検討した。得られた結果を要約すると、次のとおりである。 (1)機械的複合化による金属被覆ホウ化物粉末は、ホウ化物系サーメット溶射皮膜用原料粉末として優れていることが明らかになった。 (2)MoBとNiとの濡れ性は良好であり、溶射時の両者の反応は極めてわずかであった。 (3)MoBの表面をNiで覆った複合粉末を用いると、MoBの溶射効率は極めて高くなり、均一な組織の溶射皮膜が得られた。 (4)複合粉末を用いたMoB-Ni溶射皮膜の硬さは、Hv1500以上に達した。 (5)耐摩耗特性は、WCーCo溶射皮膜に比べて劣るものの、高温高強度材料に比べると著しく優れている。 以上検討してきたように、MoBとNiとの濡れ性は良好であり、両者の反応性も低い。また、複合粉末を用いると、MoBの溶射効率は非常に高く、MoBとNiとが均一に分布した皮膜が得られた。本研究で用いた溶射条件では、まだ幾分気孔が残っており、硬さのばらつきも幾分大きく耐摩耗特性にも改善の余地は残されて入るが、今後溶射条件の検討により、さらに優れた特性の皮膜の得られることが期待される。 このように、複合粉末の使用により優れた特性のMoB-Ni系サーメット溶射皮膜を作製することができた。この手法は、他の複合材料の溶射にも適用できると考えられる。 なお今回の研究では皮膜の高温特性まで検討することができなかった。また、バインダ金属に第3元素を添加することによってさらに優れた皮膜が得られる可能性も残されている、これらの点は、さらに検討していく予定である。
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