走査型トンネル顕微鏡(STM)は実空間で固体表面最上層の原子像を解像できる高い空間分解能を有しているが、それのみでは観察している元素種の特定は不可能であり、通常表面に存在するはずの元素種と各元素種間の位置関係とから観察元素種を推定している。本研究ではこのようなSTMの短所を改善するために、STMそのものの機能を拡張して数種の分光機能を付加し、STMの化学種認識により固体表面の化学情報を得ることを目的とした装置を試作した。さらにこの試作装置により、STMによる化学種を認識しながらの分子レベルでの固体表面の化学計測の可能性と限界とを、主に気ー固界面を対象として検討した。本研究が得られた成果は以下のとおりである。 1.これまでに試作した現有のSTM装置に分光機能を付加するための制御回路を制作した。その結果、表面における障壁高さ測定(仕事関数測定に相当)および表面の局所状態密度分布の測定がSTMと同じ分解能で測定可能となった。これらの情報はそれぞれSTM探針と試料表面間の距離またはトンネル電圧を変調してトンネル電流に現れる変調分をロックイン増幅するという方式で行った。 2.上で試作した分光機能付きSTM装置を用いて、気ー固界面におけるSTMの固体表面化学計測への適用性を、主に担持金属触媒を対象として検討した。数種の貴金属超微粒子ー酸化物担体系について、そのSTM特性と表面化学種の同定の可能性とを測定した。 3.これまで不可能とされていた酸化ケイ素のSTM測定がその薄膜化により可能となることを初めて見出した。またこれを用いて工業的に重要性の高いシリカ担持白金触媒のSTM・STS観察に初めて成功した。
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