従来の陰イオン交換樹脂ならびに液状陰イオン交換体はホフマイスター型の陰イオン選択性を示すが、本研究では非ホフマイスター型の選択性を示す新規陰イオン吸着素材の開発に関する研究を行い、以下の成果を得た。 1)ジオキソサイクラムのコバルト(III)錯体は、軸方向陰イオン配位反応において、ビタミンB_<12>誘導体、ポルフイリン遷移金属錯体などの陰イオンキャリヤーと類似の性質を示す。すなわちこの錯体は、中心金属への配位力の弱い陰イオン(硝酸イオン、過塩素酸イオンなど)の大過剰の共存下で、コバルト中心への配位力の強い陰イオン(亜硝酸イオン、チオシアン酸イオンなど)を高選択的に識別する。 2)オクタデシル基導入により疎水化されたジオキソサイクラムのコバルト(III)錯体のクロロホルム溶液は、非ホフマイスター型陰イオン選択性を有する液状陰イオン交換体として挙動する。 3)上記2の疎水性錯体を担持した合成吸着剤Amberlite XAD-7は、過剰の硝酸イオン存在下で亜硝酸イオンを選択的に吸着する。しかしこの方式では、コバルト錯体担持量の上限は0.3mmol/g程度である。 4)ジオキソサイクラムをグリシジルメタクリラート-ジビニルベンゼン球状共重合体に付加して得たキレート樹脂(RGD)では、コバルト(III)を0.7mmol/g程度まで担持可能である。このコバルト(III)担持RGDは非ホフマイスター型の陰イオン交換樹脂として挙動する。たとえば、10倍モルの過塩素酸イオンの共存下でチオシアン酸イオンの吸着が可能である。一方、従来の陰イオン交換樹脂は同条件下でチオシアン酸イオンを殆ど吸着できない。この新規陰イオン吸着剤ではコバルト(III)の溶出も殆ど起こらず、吸着・溶離・再生の反復使用も可能である。さらに疎水性の陰イオンの溶離も、従来樹脂より格段に容易である。
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