ペロブスカイト型リラクサー材料の誘電特性と相転移機構を解明することを目的として、当該年度は代表的なペロブスカイト型リラクサーであるPb(Mg1/3Nb2/3)O_3(PMN)を試料とし研究を行った。 まずPMN焼結体の粉末X線回折強度を温度を広範囲に変化しながら測定した。このデータをリートベルト法により解析し、PMNでは陽イオンがペロブスカイト構造中の理想的な位置に存在するのではなく、一部が理想位置からスプリットして存在し、その割合が低温で増加することを明らかにした。さらに、PMN焼結体の誘電率の温度変化を測定し、複素誘電率の周波数分散を誘電分散の最新の理論を用いて解析した。その結果、誘電分散は1種類の緩和を仮定した理論で説明可能なこと、および、緩和周波数の温度依存性からPMNの散漫相転移領域で熱的に活性化される、異なる状態間のホッピングがあることが判明した。また電歪効果の測定から、PMNは低温領域で強誘電性を示すことが分かった。 これらの実験事実に基づき、PMNをはじめとするペロブスカイト型リラクサーの散漫相転移機構に関し次のようなモデルを考えた。まず、これらの物質にはX線の可干渉領域よりも小さい強誘電性マイクロドメインが存在し、このマイクロドメインの領域が低温で増大する。温度が高いとマイクロドメインは安定には存在せず熱的に揺らいでいる。この揺らぎが状態間のホッピングと対応し、その緩和周波数は温度とともに低下する。0℃付近では通常の誘電率測定で用いられるkHzオーダまで緩和周波数が低下し、大きな誘電分散が測定される。すなわち、リラクサーの散漫相転移は温度の低下にともなう強誘電性マイクロドメイン領域の増加とマイクロドメインの揺らぎの凍結が重畳した現象として理解される。
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