代表的な緩和型強誘電体である鉛系ペロブスカイト化合物(リラクサー)の圧電・誘電特性と結晶中の原子配列、電子構造との関連、および散漫相転移の機構を明らかにすることを目的として研究を行った。 まずチタン酸鉛-チタン酸ジルコニウム系固体溶体(PZT)に対するマンガン添加物が、圧電特性に及ぼす影響を結晶構造と電子構造の観点から検討した。その結果、マンガンの添加によりPZTの圧電性は高結合型でかつ低損失になることを明らかにした。この原因を検討したところ、高結合型になるのはマンガンの添加による結晶構造が立方晶に近づくためであり、損失が低下するのは添加したマンガンが3価の状態で存在し、電荷補償のために存在する酸素空孔が原因であることがわかった。 つぎに代表的なリラクサーであるマグネシウムニオブ酸鉛(PMN)の散漫相転移の機構について検討した。その結果以下の実験事実を明らかにした。1)PMNは-40℃以下の温度で強誘電性を示し、その程度は温度の低下とともに増大する。2)-100℃以上の温度で結晶系は立方晶である。3)散漫相転移を起こす温度付近では熱的に活性化されるイオンのホッピングが存在する。これらに基づいてPMNの散漫相転移の機構として次のモデルを提案した。PMNにはX線可干渉領域より小さい強誘電性マイクロドメインが存在し温度の低下とともにその領域は拡大する。また、室温付近ではマイクロドメインは安定に存在せずに熱的に揺らいでいる。この揺らぎがイオンのホッピングと対応し、その緩和周波数は温度とともに低下する。誘電率のピーク温度付近では通常の誘電率測定で用いられるKHzオーダまで緩和周波数が低下し、大きな誘電分散が観測される。すなわち、PMNの散漫相転移は温度の低下にともなう強誘電性マイクロドメイン領域の増加と、マイクロドメインの揺らぎの凍結が重なった現象として理解することができる。
|