Al_2O_3やTio_2は、酸化物結晶の中でも非常に高い弾性率を示すことが知られている。いま、Al_2O_3-TiO_2系非晶質膜において、TiO_2の増加にともないAl^<3+>、Ti^<4+>の配位数が低配位から高配位状態へ変化することが報告されている。 いま、陽イオンを高配位状態に保ったままで非晶質化することが高弾性率を有する非晶質薄膜を得るための条件の一つであることから、本年度は、高周波スパッタリング法で作成したAl_2O_3系非晶質薄膜について密度と弾性率の測定を行った。また、それらの物性の変化と陽イオンの配位数変化との関係についても考察した。ターゲットには、Al_2O_3、Tio_2粉末を所定の組成に秤取、混合し、加圧成形したものを用いた。ガス組成はAr(75%)-O_2(25%)で、高周波出力100Wでスパッタリングを行った。得られた非晶質膜の組成は、Al、Tiの特性X線の強度から決定した。密度は、浮遊法で、ヤング率とポアソン比は、振動リード法と共振法で測定することにより求めた。非晶質膜の密度は、TiO_2が約50mol%で極小を示した。一方、ヤング率は、TiO_2が50mol%、80mol%で各々極小、極大を示し、50mol%TiO_2付近から急激に増大することが認められた。また、体積弾性率や剛性率もヤング率と同様な組成依存性を示した。これらの組成依存性は、膜中のAl^<3+>の配位数が50mol%TiO_2付近で5から6へ、Ti^<4+>の配位数が4から6へと変化することで説明された。したがって、50mol%TiO_2付近からの弾性率の急激な増加は、非晶質膜中に存在する陽イオンが低配位状態から高配位状態へ移ったことにより、非晶質の構造が密な構造に大きく変化したためであることが分かった。さらに、16Al_2O_3・84TiO_2の組成の非晶質膜でいままでに報告されているどの酸化物ガラスよりも高いヤング率175GPaが得られた。このヤング率の値は、ガラス中で最高のヤング率をもつSi-Y-Al-O-N系オキシナイトライドガラスの値にほぼ匹敵するものである。
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