研究概要 |
本研究では市販の厚さ40μmのセルロ-スフィルムを用いてガラス状炭素フィルムを合成した。また,本研究ではこの合成ガラス状炭素フィルムの熱処理による構造変化を液体窒素温度における電気抵抗率,ホ-ル係数,磁気抵抗の測定およびSEM観察によって検討した。出発物質であるセルロ-スフィルムからブリッ型試料(17×3mm^2)を切り出し,これを鏡面研磨した2枚の人造黒鉛板の間に挟み,赤外線イメ-ジ炉を用いて窒素ガス気流中,200℃/hで900℃まで昇温し,同温度で30分間熱処理した。熱処理した試料はさらに窒素ガス気流中で,1800〜3000℃の各温度で30分間熱処理した。熱処理試料の電気抵抗率の値はバルクガラス状炭素の値よりも若干低く,増加する熱処理温度(HTT)に対し,1800〜2000℃で減少し,2600℃まで一定,その後はHTTとともに減少する。磁場1Tでのホ-ル係数は正で,バルクガラス状炭素と同程度の大きさを示し,増加するHTTSともに増加し,2600℃付近のピ-クを経て減少する。2800および3000℃処理試料のホ-ル係数は磁場依存を示すが他の試料は示さない。従って,2800および3000℃処理試料では黒鉛構造を持つ組織が生成していると考えられる。1Tの磁場を試料面に垂直に加えたときの磁気抵抗は,2600℃のHTTまで負で,その大きさはHTTの増加とともに増し,2600℃付近に極大値をとり,2800℃以上ではHTTとともに増加する正磁気抵抗を示す。このようなHTT域においても磁場が試料面に平行すると微小な負磁気抵抗が測定にかかる。元来,バルクガラス状炭素の負磁気抵抗は印加磁場方向にあまり依存しないから,この異方的磁気抵抗はガラス状炭素フィルムの表面に生成した黒鉛薄層組織による正磁気抵抗に由来するとすることができる。この仮定は高分解能SEM観察によって確かめることができた。
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