本研究においては、前年度、ガラス状炭素フィルムが、市販の厚さ40μmのセルロースフィルム(CEF)を研磨した2枚の人造黒鉛板の間に狭み、900℃まで加世し、1時間熱処理することによって調製し(厚さ約20μm)、その熱処理(1800〜3000℃処理)による構造変化を調べたが、本年度は、内部に微細気孔の存在しないガラス状炭素フィルムを得るための条件(炭素化時の昇温速度を200℃/h以下におさえること)を見いだした。また、ガラス状炭素フィルムはCEF以外の、フィルム面に沿っての分子の配向度の低い高分子フィルムからも、CEFの場合と同じ条件で調製できることを電気絶縁性ポリイミドフィルムLARC-TPI(厚さ50μm)を用いて示した。LARC-TPIから得られたガラス状炭素フィルムの厚さは約40μmであった。また、このガラス状炭素フィルムの熱処理(2000〜2800℃処理)による構造変化を液体窒素温度における磁気抵抗の測定ならびに電界放出型高分解能走査電子顕微鏡による観察によって検討したところ、その厚さは熱処理によって殆ど変わらず、2700℃以上の温度で熱処理した試料には、バルクガラス状炭素に見られるような径約10mmの球殻が連結した内部微細組織に加えて、表面に厚さ約100nmの層状微細組織をもつ薄層が生成していることが確かめられた。内部の球殻状微細組織と表面の層状微細組織は、CEFから調製したガラス状炭素フィルムの徴細組織と共通するものであった。表面の薄層の結晶構造を同定するために、CEFから調製したガラス状炭素フィルムを2600〜3000℃の温度範囲で1時間熱処理し、フィルム試料をそのまま用いてX線回折実験を透過法および反射法によっておこなった。その結果、薄層は黒鉛構造をとっており、熱処理によって構造改善することが判明した。
|