本研究はAOT逆ミセルなどの分子集合体界面に配置した電子供与体(D)、受容体(A)間の光誘起電子移動反応について検討した。 1.まず、均一系でのD-A連結化合物について分子の形態を検討した。このD-Aとシクロデキストリン(CD)貫入型錯体の錯形成挙動をNMRによって測定し、熱力学的パラメータを検討した。その結果、静的にはCDの疎水部とアルキル鎖との相互作用がその安定性の要因となっていること、また、動的には分子両端の電荷をもつ親水部とCD疎水部との相互作用が反応のバリアーとなっており、このため異常に安定なCD錯体が生成することがわかった。 2.電子移動によって生じたラジカルが、ミセルなどの界面のどの位置存在するかを電子スピンエコー法によって検討した。その結果、通常のミセルではその表面電荷とラジカルの電荷によって存在置が支配されること、また逆ミセルでは、ラジカルに付随するアルキル鎖の長さと分子中のラジカルの位置によって決定されることがわかった。 3.時間分解ESRの測定装置の開発を行い、光誘起電子移動反応における過渡的ESRスペクトル(CIDEP)が測定できるようになった。水溶液では誘電損失のため測定ができないが、AOT逆ミセルを利用すると水溶液に近い系で、かつ良好なスペクトルを得ることに成功した。 D-A系でこのCIDEPを測定した結果、連結系においては、スペクトルパターンより、ラジカル間の電子交換相互作用がD-A間の長さに依存していることが結論できた。また、これらのスペクトルは、シミュレーション結果によってある程度再現できることがわかったが、詳細な一致は得られなかったので、今後更なる検討が必要である。
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