研究概要 |
本研究は,長鎖脂肪酸金属塩等の金属含有LangmuirーBlodgett(LB)において,金属イオンが極性層間に濃縮,配列していることに着目し,このようなLB膜を前駆体として酸化,硫化等の処理により無機薄膜あるいは有機ー無機複合薄膜を分子レベルで組織化,構築することを目指すものである。 1.ステアリン酸カドミウムLB膜に熱分解,硫化の処理を施してCdO,CdSの生成を試みた。熱分解処理は,(a)空気中20℃C・min^<-1>の速度で500℃まで昇温後,500℃で5分間保持,(b)500℃に加熱した電気炉中にLB膜を入れ,5分間熱処理,の2つの条件で行った。硫化処理は,H_2Sガスの流通(流速25ml・min^<-1>で15分間)により行った。さらに,硫化後CdCl_2水溶液(3×10^<-3>M,pH5.8)に3時間浸漬し再び硫化の繰り返しにより,CdS生成量の増加も試みた。 2.100層以上累積したLB膜の熱分解によるCdO薄膜の形成を電気抵抗測定より調べた。(a)条件で熱分解したものは,層数に依らず石英基板と同様の抵抗の負の温度依存性を示した。200層以上累積したLB膜を(b)条件で熱分解したものは,抵抗の温度依存性がほぼ0であり(CdO粉末を700℃で7時間焼結させたものと同様),CdO連続薄膜の形成が示された。LB膜の層数や熱分解条件の制御により,金属酸化物の連続薄膜を作製できる可能性を見い出した。 3.LB膜に硫化処理を施すと,IRスペクトルにおいては,金属塩の形成を示すCOO^-のピ-クが消失し,COOHのピ-クが現われた。UVスペクトルにおいては370nmに吸収端を有する吸収が現れ(バルクCdS:540nm),量子サイズのCdSの生成が示唆された。また,CdCl_2水溶液に浸漬ー硫化の繰り返し処理により,UVスペクトルにおける吸収端のレッドシフトおよび吸光度の上昇が見られ,CdSを成長できることを見い出した。X線回折測定よりLB膜の層構造がほぼ保持されていることが確認され,ステアリン酸ーCdS積層薄膜形成の可能性が示唆された。
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