カルボニル基のアリル化反応は重要な合成手段として広く研究されているが、選択性に欠ける場合や強ルイス酸あるいはPdなどの高価な貴金属触媒を必要とする場合が多く、より効率的な手法の開発が求められている。本申請研究は、従来は過酷な条件を必要としていたBu_3Sn〓とカルボニル基との付加反応を、ほとんど中性に近い錯体であるBu_2SnCl_2ーHMPA(あるいはBu_2SnCl_2ーEt_4NCl)を反応促進剤とすることによって効率よく進行させることに成功した。 この方法は、そのままでは反応性が低いBu_3Sn〓を触媒量のBu_2SnCl_2錯体によって活性の高いBu_2SnCl〓に変えてカルボニル基に付加させ、その後、錯体を再生するというものである。 この手法を式ー1に示した反応に適用し、アリルオキシランを合成することができた。この反応は、そのまま加熱するとラジカルカップリングが起こるため、Pd触媒などを使用しても容易に進行しないことが知られている。しかし、今回開発した錯体触媒を用いることによって高収率で目的のオキシランを得ることが可能となったものである。 本方法の利点は活性は高いが不安定なBu_2SnCl〓を常に触媒見合い量だけ生成するために、副反応を抑制できること、また強ルイス酸などの強い反応促進剤が必要でないことなどである。さらに最も特長的であるのは、これまでに開発されている方法の大半が、アリル化される基質であるカルボニル化合物を活性化するものであるのに対し、今回の方法はアリルスズを活性化しており、根本的に異っており、今後の検討でさらに新しい特性の開発が期待できるものと考えている。
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