電解還元系でのs-アリールパラジウム錯体の挙動と反応活性種の解明、さらには、新規電解還元系パラジウム錯体触媒反応の開発に向けた研究を行なった。まず、s-アリールパラジウム錯体の電解還元で発生する電子過剰反応種を種々の親電子剤で捕捉することを検討し、ビフェニール、安息香酸、スチルベン等を製取することに成功した。また、s-アリールパラジウム錯体のサイクリックボルタの検討を行なって、パラジウム(II)錯体が二電子還元により"s-アリールパラジウム(O)アニオン"と"アリールアニオン、パラジウム(O)"の平衡混合物を与える極性反転機構を提案した。s-アリールパラジウム(O)アニオンの生成は、現代階では仮説の域をでないが、このアニオン錯体の生成を念頭においた、電解還元系異種アリールハライド間クロッスカップリング反応に成功した。また、プロパジルアセテートとパラジウム(O)錯体との反応で調製したアレニルパラジュウム錯体の極性反転の可能性についても検討した。さらに、複合金属レドックスレドックス系に於ける電子伝達について研究を行ない、アルケニルラジカル等価体を生成する新規電子伝達系を見いだした。 以上、電解還元系で惹起されるパラジウム錯体の極性反転機構の解明を中心に、新炭素アニオン等価体、ラジカル等価体の生成する新手法の開拓に成功し、今後の研究の展開に指針を得ることができた。
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