1.水中での水素結合錯体、水中での水素結合錯体生成を証明することは極めて困難であり、事実現在なでにそのような報告例は非常に少い。今回、ビリルビンとβーシクロデクストリン(βCDx)とのキラル錯体生成につき、円二色性(CD)スペクトルを用いて詳細に検討した結果、化学的にではあるが水中における水素結合がこの錯形成の結合力であることを証明することができた。βーCDxの小素結合点である水酸基を全てメチル化した場合には錯体ができないこと、βーCDxの第2水酸基を酸解離させた場合には、CDシグナルが消失すること、βーCDxの疎水性空洞を第2のゲスト分子で埋めつくしたときには、錯形成が促進されること、錯形のカルボクシラ-トとβーCDxの第2水酸基との間に形成される二点水素結合が、キラルビリルビンーβーCDx錯体生成と推進力であることが証明された。さらに胆汁酸とビリルビンとのキラル錯体形成についても詳細に検討した。水と同様にプロトン性極性溶媒であるメタノ-ルを媒体として用いた対照実験から、水中ではビリルビンのカルボキシラ-トイオンと胆汁酸の3ーおよび12ーαー水酸基との間の二点水素結合が、ビリルビンキラル錯体の主たる結合力であることを明らかにした。 2.水中での強いvan der Waals力。カチオン性ポルフィリン(TAPP)と1ーメチルアクリジニウムクロリド(MA)との分子錯体の生成定数(K)を、水ーアセトニトリル混合溶媒中で測定し、溶媒の極性パラメ-タであるE_T(30)値とKとの関係を求めた。その結果、KとE_T(30)との間には良好な相関々係が認められ、Diederichらおよび我々が主張してきたように、水中では有機溶媒中よりも極めて強いvan der Waals力が疎水性溶質間に働くことがさらに確められた。今後、水中の強いvan der Waals相互作用の機構を詳しく研究する予定である。
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