研究概要 |
1.水中での強いvan der Waals相互作用.カチオン性ポルフィリンであるTMPyPの自己会合及び他分子との分子錯体生成につき詳細に検討し、水中では有機溶媒中に比べて非常に強いvan der Waals相互作用が、溶質分子間に働くことを明らかにした。本研究は、これまで水中の強い分子錯体形成能として知られていた多くの実験事実を説明することができることより、評価されるべき内容と考えている。 2.水中での水素結合.水を含めて、プロトン性極性溶媒中では、溶質分子間の水素結合は形成されないという認識がこれまで受け入れられてきた。しかし生体系と同様に疎小的な環境の近くに水素結合点が存在する場合には、水中においても水素結合の形成が可能であるとの仮説を立て、種々検討してきた。単分子膜界面,ミセル界面、ステロイド骨格近傍、環状オリゴ糖ヘリ部といった、水中に形成されるミクロ疎水場の近くでは、水素結合が水中においても形成されることを、実験事実として示すことに成功してきた。今後、これらの事実の理論的裏付けをしていく必要がある。 3.環状オリゴ糖による不斉認識.水中での分子錯体生成機構に関する基礎的研究を基に、シクロデキストリン(CD_x)による不斉誘起や不斉認識について研究した。人工系では実現困難と考えられてきた“鍵と鍵穴"式の不斉認識がCD_xを用いることで可能となることが次第に明らかとなってきた。しかし、水素結合の助けを利用すると、さらに選択的に不斉認識が実現できることも示唆されており、今後の詳細な研究が必要と思われる。 4.CD_xを用いる光学分割.CD_xを分離剤として用いる100%光学分割が、キャピラリー電気泳動で実現できた。今後は、単離できるスケールでの光学分割につき、さらに研究を進める予定である。
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