研究概要 |
1.金属錯体の材料化を目指して、コバルト(III)のDHPTA(1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパンN,N,N',N'-4酢酸)単核錯体の非配位性水酸基に対するアシル化反応を検討し、この錯体を重合可能なモノマーとすることに成功した。すなわち、非水溶媒中で無水メタクリル酸と錯体とをクリプタンド包接可溶化法によって反応させ、重合禁止剤の存在下においてメタクリル基の導入を実現した。重合禁止剤を用いない反応系においては、すでに重合体を得ており、この重合体がハイドロゲルとなることを新たに見い出した。6配位八面体型の錯体をペンダントグループとするこの重合体の開発は、多数の6座配位子を側鎖に有する新しい多官能性有機配位子を与えたことに他ならず、その高度な利用をモノマーの重合反応と併せて今後も検討する。なお、上記ハイドロゲルについては、セラミックスを合成するためのゾル-ゲル法への応用をすでに検討している。 2.上記の有機多座配位子DHPTAと鉄(III)との反応を、窒素酸化物のひとつである亜硝酸イオンの存在下で試みた。この反応系は、酸性雨などの原因となる空気中の窒素酸化物を硫黄酸化物と同時に処理する可能性を有するものである。本研究において、鉄(III)-DHPTA錯体上に亜硝酸イオンを架橋配位子として取り込んだ4核のオキソ錯体として単離可能なこと、重要なことに強い酸性条件下でも生成することをはじめて見い出した。すでに単結晶も合成し、そのX線結晶構造解析によって構造を決定した。この反応系と生成物は、上記の窒素酸化物の除去のみならず、、生体中における窒素酸化物の挙動や、4核錯体自身の磁気的な性質への興味、さらに鉄貯蔵タンパクのモデルとなるなど、今後多方面での成果を期待できるもので、本研究におけるきわめて大きな成果のひとつである。
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