研究概要 |
光学活性な化合物を高立体選択的に合成することは、合成化学、医薬品化学において近年、重要な課題となっている。そこで、本研究は環状リン化合物の合成とその応用を検討した。 先ず環状ホスホニウム塩から発生させたイリドとα,βー不飽和カルボニル化合物の反応を試み、どのような反応生成物を与えるか検討した。即ち、α,βー不飽和ケトンとしてメチルビニルケトンを選び、tーBuOKを塩基として発生させた五員環ホスホニウム塩1のイリドと反応させた。その結果ホスフィノイル基を有するシクロヘプテン誘導体3が収率63%で得られた。 本反応は、イリド2がメチルビニルケトンにMichael付加した後、プロトン転移を伴うイリドの再生、続く分子内Wittig反応により生成したと考えられる。次に、本反応の汎用性を確かめるため、種々のα,βー不飽和ケトン及びアルデヒドについて反応を行った。その結果、α,βー不飽和アルデヒドやβ位に置換基を2つ有するメシチルオキシドから環状化合物は得られずWittig生成物が得られたが、ベンザルアセトンやカルコンのようにβー炭素上にかさ高い置換基を有するβー置換不飽和ケトンからも、シクロヘプテン誘導体が生成することが明らかになった。 次に、不斉アリル化剤としてビニルホスホネ-ト及びビニルホスホンアミドの合成とMichael反応受容体としての利用を検討した。光学活性ホスホネ-ト、ホスホンアミド、また電子求引基としてエトキシカルボニル基を有する光学活性ホスホネ-トをいずれもE体選択的に合成することに成功した。光学活性スチリルホスホネ-トは、サリチルアルデヒドのナトリウム塩とMichael反応し、連続的に進行する分子内HornerーWittig反応によって対応するフラベン誘導体を与えることが明らかとなった。種々の反応条件を検討したところ、THF中68時間還流することにより、フラベン誘導体(5)が、収率良く得られることを見いだした。また、それぞれの光学活性リン化合物より得られた(5)はいずれも旋光性を示し、リン原子団に結合した不斉な配位子がMichael反応の際、そのジアステレオトピックな面選択性に影響を及ぼし、不斉誘起していることが明らかとなった。
|