光弾性偏光変調素子(Photoelastic modulator、PEM)の光学素子の持つ動的残留歪は、他の光学素子、検出器およびロックインアンプの非理想性と結び付き、ニセのシグナルを作り出す原因となる。したがって、動的残留歪の小さな光学素子を用いたPEMを用いなければならない。光学素子の残留歪は光学素子の厚さに比例するので、光学素子を薄くすればするほど動的残留歪を小さくすることができる。これまで我々の研究室で製作してきたPEMだけでなく市販品も厚さが6.4mmのものが用いられてきている。しかし、これはKempが最初に発表した大きさのPEMがそのまま用いられているにすぎない。そこで、これまでの半分の厚さ(3.2mm)のPEMを試作し、紫外・可視領域でCDスペクトル測定が可能であるうえ、動的残留歪が非常に小さいことを見いだした。試作したPEMはまた、水晶振動子、石英ガラスとも材料が半分で済むので経済的にも有利である。 光学素子の厚さが半分になるということは、得られる遅延量も半分であるこということである。したがって必要な遅延量を得るためには、これまでの2倍のパワーを与えなければならない。すなわち、もし抵抗値Rが同じならば√<2>倍の電圧をPEMに加えなければならず、PEMの発熱による特性の経時変化はもちろん、場合によってはPEMの破壊も考えられる。しかし、PEMの支持方法の改善などによりR値を小さくすることができた。試作したPEMの残留歪を測定したところ、従来のPEMよりはるかに残留歪が小さいことが分かった。CD標準物質を試料にしてCD測定を行ったところ、200〜700nm範囲で正しいCDスペクトルが得られた。試作したPEMは、市販の偏光変調分光計に設置されている従来のPEMと置き換えるだけで装置の高性能化を図ることができる。
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