本研究では単繊維に対する有機溶媒の拡散過程を光散乱法によって評価することが目的であった。平成3年度では測定装置、特に溶媒蒸気圧と温度を制御できさらにレーザー光を透過させることができる光散乱用拡散測定セルの組み立てを完成させること、および本実験に適した繊維と有機溶媒の選択に専念した。装置としてはミクロトームの購入(繊維断面の形状を調べたため)、動画像処理装置用ハードディスクの購入(光散乱強度の時間変化を迅速に捕らえ解析するため)、そして上述した光散乱拡散測定用の石英ガラスセルを完成させた。繊維として最終的に選択した系は、Case II拡散が期待できるポリスチレン繊維に対するアセトン蒸気の拡散である。すなわち屈折率が繊維内部で段階的に変化する同軸二重円筒体の散乱理論が利用できるためである。平成4年度では、拡散の基本的なデータを得るため、収着バネ秤法による拡散係数の評価を行い、その結果に基づいて光散乱実験での蒸気圧、温度を設定した。また、製作した光散乱用拡散測定セルを光学顕微鏡に取付け、アセトン蒸気吸収による形態変化の観察も同時に行った。直径25μmのポリスチレン繊維では、飽和蒸気圧付近で、溶媒蒸気の拡散により溶媒がまだ浸透していないコアと溶媒が浸透して平衡状態となっているシェルを明確に分けていることを示した。光散乱結果からも明らかに鋭い階段状の屈折率分布であることを指示した。この境界線が繊維の中心に達した瞬間から繊維の収縮が始まることも明らかになった。これらの結果は、Case II拡散の本質を知る上に極めて重要な結果であると思われる。さらにCase II拡散以外に、一般のフィック型拡散に対しても本光散乱法が適用可能な系の探索をした。これは今後発展させるべき課題であろう。現在までに得られた結果としては、ナイロン6繊維の、水やメタノールの拡散が測定可能であると思われた。
|