膜素材を通しての生理活性物質の透過は、近年最も高い関心が寄せられている膜利用分野のひとつである。ステロイド類はCー11位、及びCー17位に結合している置換基により、極性が異なる他、生理活性も著しく異なる。極性(親水性)の状態が系統的に異なる9種のステロイド類を用い、親水性を異にする高分子膜に対する透過性、選別輸送の機構を明らかにすることを目的として研究を行った。 高分子膜として、まずスチレンスルホン酸、メチルメタクリレ-トからなる共重合体を合成し、それらの割合を変えて全水和度25%〜76%と異にする4種の膜を用いた。透過セルを用い、ステロイドの飽和溶液を入れ、透過側の濃度変化を紫外吸収スペクトルにより37℃で測定した。ステロイド混合物の透過性の測定には、高速液体クロマトグラフィを用いた。これら含水膜のステロイドの透過係数は、ステロイドの化学構造に無関係であり膜の全水和度により決定されること、ステロイドの拡散係数は全水和度の水を拡散の場とする自由体積理論に従うことを明らかにした。不凍結水に限定した水和度との間にはこのような関係は得られなかった。一方、ステロイドの膜への分配係数は逆に水和度の低い方が高い結果が得られた。これらの結果より、低い水和度で、且つ高分子鎖間隙が広く拡散係数の大きい高分子膜を用いれば高い透過係数が得られるものと考え、ポリジメチルシロキサン膜を用い、9種のステロイドの透過性を調べた。この場合はステロイドの極性と透過係数の間にきれいな関係が得られ、ステロイドの極性が低いほど、高い透過係数が示された。これより、この膜を用いた場合にはステロイドの膜透過による分離の可能性が示唆され、事実2桁の分離係数を得た。これらの結果は、膜中のステロイドの濃度が希薄で互いの分子間の相互作用より、高分子マトリックスとの相互作用が支配的であることによると結論できた。
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