(1)膜透過実験: 本年度は主として、膜蒸留および湿度制御実験装置を用いて、各種疎水性多孔質膜に関する水蒸気の透過実験を実施した。孔径の大きい膜では分子拡散機構が適用できるが、孔径の小さい膜では、拡散係数は明らかに小さくなり、拡散係数が孔径に比例して小さくなる完全なクヌーセン領域が測定された。これらの多孔質膜は主として延伸法によって作られており、空隙構造は複雑であり、メーカーから与えられる公称孔径の円管としての式とは数値的に必ずしも一致せず、膜構造の適切な“ものさし"の必要であることが判明した。 (2)計算機シミュレーション: 昨年度の直孔内での分子運動をシミュレートするプログラムを、本年度は規則的に配置された円柱で構成される膜へ適用するシミュレーションプログラムに変更した。円柱径、ポア径、膜面に垂直な円柱間隔を変えてシミュレーションを実施することによって、有効拡散係数が分子拡散領域からクヌーセン領域まで変化する様子を再現できることが判明した。 (3)膜構造の表現: 各種市販膜の膜構造を反映する物性として、耐水圧およびバブルポイントを実測し、ループモデルを提唱した。このモデルは電子顕微鏡で観察したポア径と繊維径を基礎として、実験結果をよく説明することが判明した。このモデルを3次元に拡張した円柱からなる格子モデルを上記の計算機シミュレーションに適用した。このモデルによって(1)の膜透過実験結果を統一的に説明することができた。
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