タンパク質の高度分離法としての晶析法を開発するためには、単一のタンパク質の沈殿生成機構を明らかにするとともに、目的タンパク質に共存する第三のタンパク質の影響についても明らかにする必要がある。 本研究では、タンパク質分解酵素サ-モライシンをモデルタンパク質として、その沈殿生成機構について検討した。また、同酵素の自己分解生成物(サ-モライシン断片)を、共存する第三タンパク質に見立てて、沈殿生成における不純物タンパク質の影響についても検討した。それらの結果として、主として次の結果を得た。 1)サ-モライシンの結晶化は、サ-モライシン分子が会合してできる直径50〜100nmの1次粒子の生成し、その1次粒子が会合する結晶生成の2段階で進行する。 2)サ-モライシン(MW34600)の自己分解は、まず分子量10000と25000の2つの断片に分離されることから始り、次々と分解することにより、少なくとも8種の自己分解物を生成する。 3)サ-モライシンの結晶化(沈殿化)は、溶液中に存在する自己分解物によって阻害される。 4)自己分解物は、結晶生成の2段階のうち、第2段階すなわち1次粒子の会合(凝集)を阻害する。 5)自己分解物は、サ-モライシン結晶に取り込まれるが、1次粒子には取り込まれず、1次粒子が会合する第2段階で母液として取り込まれる。 サ-モライシンに極めて近い構造をもつ自己分解物でさえ、少なくとも1次粒子生成段階では結晶内に取り込まれなかったことより、1次粒子生成の機構を明らかにすることにより、沈殿法をタンパク質の高度分離法に昇格できる可能性が示唆された。
|