前年度までの研究で、酵素タンパク質サーモライシンの結晶化が、粒子径60nmの1次粒子の生成と、その1次粒子が核化ならびに成長する2段階で進行することがわかった。本年度は、まずこの2段階の結晶化が他のタンパク質についても認められるのか否かについて検討するため、リゾチームの結晶化について検討した。その結果、リゾチームもまた、結晶中に200〜1000nmの微粒子が多数存在することがわかり、サーモライシンほど顕著ではないが液相タンパク質濃度の経時変化からも、2段階結晶化を示唆する結果が得られた。サーモライシンの1次粒子生成速度は非常に速く、結晶化条件設定後10分以内に生成したが、リゾチームのそれは比較的遅く、結晶化条件設定後ほぼ10時間を要した。 前年度までの結果と、上述の結果から、晶析法によるタンパク質の分離精製について新しい方法を提案した。その分離の特徴は次の通りである。1)1次粒子を分離する方法:不純物単独では晶析しないが、析出した目的タンパク質結晶中に混入する可能性があるときには、晶析途中に生成する1次粒子を分離・回収する方法が有利である。2)結晶成長速度差を利用する方法:目的タンパク質と不純物タンパク質の両者が析出するために、溶解度差のみからは分離が難しい系においては、1次粒子の生成速度および結晶に成長速度の差を利用して分離する。3)目的タンパク質と不純物タンパク質の両者が析出する場合でも、生成する沈殿の大きさは異なる場合には、その微粒子の大きさの違いを利用して分離する。これらの方法は、いずれも、1次粒子には不純物は含まれないという本研究で得られた知見を利用したものである。サーモライシンおよびリゾチームの混合溶液を用いて、これらの方法の一部について実証した。
|