本研究は、現在タンパク質の分離法としては評価が低い晶析法を、高度分離法に発展させるために基礎的ならびに工学的検討を行ったものである。 まず、タンパク質の昌析機構に関する基礎的検討が必要であるとの観点から、主としてサーモライシンを用いて、その結晶化機構について検討した。その結果、1)結晶化は、60nm前後の一次粒子の生成と、その1次粒子を構成単位とする結晶成長の2段階で進行する。2)結晶成長速度は初期飽和度に依存し、成長速度を最大にして結晶個数を最小にする最適初期飽和度が存在する。これは1)に示した結晶成長2段階モデルで説明できる。3)1次粒子には不純物タンパク質は含まれず、1次粒子程度の大きさのタンパク質結晶が生成されるまでは、同一タンパク質間の相互作用が優先される。などが明らかになった。リゾチームについてもほぼ同様の機構で結晶化していることが示唆された。 次に、晶析法によるタンパク質の分離精製について、次のような新しい方法を提案した。1)1次粒子を分離する:不純物単独では晶析しないが、目的タンパク質の結晶中に混入する可能性があるときには、晶析途中に生成する1次粒子を分離・回収する。2)結晶成長速度差を利用する:溶解度差のみからは目的タンパク質と不純物タンパク質とを分離できない系では、1次粒子の生成速度および結晶成長速度の差を利用して分離する。3)沈殿微粒子の大きさの違いを利用する:目的タンパク質と不純物タンパク質の両者が析出する場合でも、生成する沈殿微粒子の大きさが異なる場合には、その違いを利用して分離する。これらの方法は、いずれも、1次粒子には不純物は含まれないという本研究で得られた知見を利用したものである。サーモライシンおよびリゾチームの混合溶液を用いて、これらの方法の一部について実証した。
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