本研究はイネの組織培養中に生じる変異を培養カルスおよびそれからの再分化植物を用いて調べ、分子育種に役立てようとするものである。まずイネ種子由来カルス(品種:Tadukan)を継代培養し、継代培養期間の異なるカルスより全DNAを抽出しアガロ-スゲル電気泳動後にDNAをナイロンメンブレンにトランスファ-しジコキシゲニンにより非放射性ラベルを行なったイネ日本晴ミトコンドリアDNA断片とサザンハイブリダイゼ-ションを行なってRFLPパタ-ンを調べた。その結果、18ヶ月継代培養した一部のカルスにおいてミトコンドリアDNAのcoxI遺伝子近傍に挿入変異のあるものが認められた。次に継代培養期間の異なるカルスから再分化を行なった結果、18ヶ月間培養したカルスからの再分化率は低く(4%)調査することが出来なかったが、培養期間が60日のカルスの再分化率は比較的高く18個体(18%)を得た。この18個体につき8葉期に葉身より全DNAを抽出し、同様の方法で変異を解析した。その結果、coxI領域近傍にカルスにおける変異とは異なった変異分子種の存在が認められ、さらにこの個体はcob遺伝子領域でも異なったパタ-ンを示した。ただしこのミトコンドリアDNAにおいて変異を示す個体の外部形態および種子稔性に特別の異常は見いだせなかった。以上のことはミトコンドリアDNAの変異分子種の存在が、直接外部形態の異常に結びつかないということを示しているが、生理・生化学的な変異のある可能性もありさらに研究を要する。現在、ミトコンドリアDNAばかりでなく葉緑体DNAも含め、カルスおよび再分化植物におけるさらなる変異を検索中である。また本年度の研究実施計画では変異個所を含む領域の塩基配列も調べる予定であったが、次代において変異が固定していることを確認してから行った方が良いとの判断からシ-クエンスは来年度以降に行なう考えである。
|