本年度はイネ幼植物における硝酸イオン吸収のミハエリス=メンテン式による解析を中心課題とした。 日本型8品種とインド型10品種の播種後15日目における硝酸イオン吸収について調査した結果、全供試品種について28℃の条件で、Km(ミハエリス定数、吸収キャリアーの親和力を表す)は76〜130μmの変異を示した。日本型、インド型品種群内での変異はそれぞれ76〜121MM、と82〜130MMであった。このことは両品種群間で硝酸吸収遺伝子には差異がないことを示唆している。品種群内でみられる約1.6倍のKmの差異は硝酸吸収キャリアーを働かせる要因の差異に起因していると推察される。一方、Vmax(最大吸収速度)は供試18品種内で4.3〜7.2μmol・g^<-1>・h^<-1>の変異があった。同程度のKmを示す日本型とインド型品種のVmaxを比較すると、インド型品種の方が低いVmaxを示す傾向が認められた。 硝酸代謝にかかわる4突然変異系統を用いて、硝酸イオン吸収のミハエリス定数について検討したところ、そのなかの1系統M605が親品種農林8号に比べてVmaxは変化せずにKmが著しく高くなっていることが認められた。M605は農林8号に比べて低濃度域において硝酸吸収能が低下していた。M605は塩素酸高感受性系統として選択されたものだが、このことと高Kmとの関係は今後の検討課題である。本実験結果は突然変異により硝酸吸収キャリアーの特性を変化させる可能性を示唆している。硝酸還元酵素欠失の2系統、塩素酸抵抗性の1系統についてはKmとVmaxとも親品種は差異はなかった。
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