カイコガの頭部から、その性フェロモンであるボンビコ-ルの生産を制御する神経ペプチドホルモン(PBAN)が同定され、合成ペプチドを用いた構造活性相関の研究から、活性の発現にはC末端側5残基ほどが必須であることが明らかとなった。そこでC末端側11残基に相当するペプチドを新たに合成し、ウシ血清アルブミンと架橋後その複合体を抗原としてマウスに数回にわたって注射した。得られた抗血清を用いてカイコガの脳および食道下神経節(SG)を染色したところ、SG内の3〜4対の神経分泌細胞が染色され、PBANの生産器官の脳ではなくSGであることが判明した。 カイコガの処女雌を断頭し頭部からのPBANの供給を絶つと、1日ほどでフェロモン膜からはボンビコ-ルが抽出されなくなる。そのようなフェロモン腺を腹部より切断しPBANを含むGraceの培養液中に保持したところ、新たなボンビコ-ルの産生が認められた。フェロモン腺に付着する神経系を丁寧にとりのぞいても同様な結果が得られ、この結果からPBANは直接フェロモン腺に働きかけており、神経系の関与はないことが確かめられた。 さらに、PBANの制御するボンビコ-ル生合成過程を明らかにする目的で、培養フェロモン腺中での各種 ^<14>Cー標識前駆体の変換実験を行った。ボンビコ-ルはパルミチン酸を経由して、それが不飽和化された後にアルコ-ルへと還元される経路にて生合成される。今回、 ^<14>Cー標識酢酸ナトリウムのパルミチン酸への変換を調べたところPBANが存在しなくても進行することが確かめられた。一方、 ^<14>Cー標識バルミチン酸の不飽和化反応は培地へのPBANの添加の有無に影響されないが、その先の還元過程はPBANの非存在下では進行しない結果が得られた。また ^<14>Cー標識不飽和脂肪酸を合成しそのフェロモンへの変換を検討したところ、やはり培地へのPBANの添加が必要であった。以上の結果より、PBANはボンビコ-ル生合成において、アシル化合物のアルコ-ルへの還元反応を制御していることが明きらかとなった。
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