研究概要 |
蛾類雌成虫の分泌する生フェロモンは、腹部末端に存在するフェロモン腺において対応する脂肪酸より生合成されること、またその生合成は、頭部より分泌される神経ペプチドホルモン(PBAN)によって活性化されることなどが明かとなってきた。このことをふまえカイコを材料にして以下の研究を行った。 (1)PBANの構造活性相関:合成ペプチドを用いた構造活性相関の研究から、活性の発現にはC末端側5残基ほどが必須であることを明らかにした。 (2)PBAN産生器官の解明:C末端側11残基に相当するペプチドを材料にして調整した抗血清を用いて脳および食道下神経節(SG)を染色したところ、SG内の3〜4対の神経分泌細胞が染色され、PBANの生産器官は脳ではなくSGであることが判明した。 (3)PBANの標的器官の確認:培養フェロモン腺を用いた実験より、PBANは直接フェロモン腺に働きかけており、神経系の関与はないことが確かめられた。 (4)PBANの制御するボンビコール生合成過程:培養フェロモン腺中での各種^<14>C-標識前駆体の変換実験を行い、PBANはボンビコール生合成において、アシル化合物のアルコールへの還元反応を制御していることを明らかにした。 (5)交尾が誘起する性フェロモン産生抑制作用の解析とモノクローナル抗体の作成:交尾後に雌蛾の性フェロモン含量は減少するが、それは、交尾による何らかの刺激がSGからのPBANの分泌を妨げていることが示唆された。体液中のPBAN濃度を調べるべく、モノクローナル抗体を現在作成中である。 (6)Δ11-不飽和化酵素の阻害物質の合成とその阻害活性の測定:ボンビコールは、パルチミン酸からΔ11-不飽和化酵素の働きで形成される(Z)-11-hexadecenoic acid を経由して生合成される。今回、11位にプロペン環を持つ脂肪酸11,12-methylenehexadec-11-enoic acidを化学合成し、その生合成に及ぼす影響を検討することができた。
|