エンバク冠さび病抵抗性遺伝子Pc-2は冠さび菌に抵抗性を示すばかりでなく、宿主特異的毒素ビクトリンに感受性を示す。また、低分子で化学構造も明らなビクトリンはエンバクのフィトアレキシン・アベナルミンの生成誘導をする特異的エリシターとしての作用を持つ。したがって、エリシター・ビクトリンによるアベナルミンの生成誘導はエンバク冠さび病の抵抗性発現機構の分子レベルでの解明のモデルシステムとして有効である。本研究では、ビクトリンによるアベナルミン生成を伴うPc-2遺伝子の発現制御機構を分子生物学的手法を用いて解明するものである。 はじめに、Pc-2遺伝子保有エンバクIowa x469品種のゲノミックライブラリーを調製した。また、ビクトリン処理葉よりえたm-RNAのcDNAを調製した。一方、既知のダイズ由来、フェニールアラニン・アンモニアリアーゼ(PAL)、カルコンシンターゼ(CHS)およびカルコンイソメラーゼ(CHI)のcDNAとビクトリン処理時のpoly-mRNAとハイブリダイゼーションしたところ、PALcDNAと結合する遺伝子がアベナルミンの蓄積と呼応して認められ、エンバクのPALが活性化していることが示唆された。しかし、アベナルミンの生合成系の関与しない、CHSとCHIのcDNAと結合するスポットは認められなかった。このことは、アベナルミンの生合成に関与する酵素のみに反応するものであり、フラボノイド系化合物の合成の活性化はないことを示すものである。また、ビクトリン処理葉より得たmRNAのcDNAに対してPALcDNAとハイブリさせたところビクトリン処理のより活性化されるPAL遺伝子を確認した。現在、ビクトリン処理後の経時的な変動を追認している。また、イネのキチナーゼcDNAとエリシター・ビクトリンにより活性化されるmRNAのcDNAとのハイブリを行いエンバクのキチナーゼが活性化すことが明らかになった。これはキチナーゼ酵素活性が増高することとも一致した。今後、これらエンバクの遺伝子のクローニングを進める計画である。
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