水田生態系においては、作土と心土は浸透水を通して結ばれている。これまで、作土から心土に運ばれた第一鉄が心土で酸化されることが明らかにされていることに鑑み、透水液に溶存し心土へ運ばれたメタンの心土での酸化の可能性を検討した。得られた結果は以下の通りである。 1.透水に伴うメタンの心土への移行は、透水量に比例して増加する。また、その溶存濃度は、水稲を作付けしない無作付区では、湛水中期以降、メタンの飽和濃度に相当していた。他方、水稲作付区においては、水稲作付中期、不飽和濃度を示したが、これは生成したメタンの多くが、地上部へと移行したためと推察された。 2.作付区において透水に伴って心土へ運ばれたメタンの総量は、大気へと水稲を通して移行したメタン量の1割以上にも達していた。 3.心土を作土カラムに接続することにより、作土から浸透してきたメタンは速やかにその大半が酸化されるが、なお一部は未分解のまま下方へと浸透した。これは、メタン酸化菌に必要な基質がメタンを酸化するに十分な量透水液中に含まれていないためと判断された。 4.心土は作土から浸透してきた第一鉄を速やかに酸化・吸着し、また有機物に対しては、その酸化・吸着を行うことが明かとなった。この際、福島土壌では、有機物は酸化とともに吸着されていたが、安城土壌では酸化は僅かで吸着が主要な過程であり、土壌ごとに異なっていた。 5.以上のように、水田生態系において心土は浸透水とともに運ばれてきたメタンを酸化分解する能力を有し、その量は浸透水量と土壌の種類によることが明かとなった。
|