1.土壌の全セレンおよび可溶性セレンの形態変化:風乾土壌にグルコースを添加し、湛水条件で30℃、約40日間インキュベートして、土壌の還元化に伴うセレンの形態変化を追跡した。土壌の全セレンは0.1M NaOH溶液で繰り返し抽出した後5種の形態に分別して、可溶性セレンは0.1M Na_2SO_4溶液で抽出した画分について、各々濃度と形態を検討した。可溶性セレンの形態はSephadex G25を用いるゲルろ過法によって分子量数千の高分子画分と分子量数百の低分子画分に分けて検討した。検討の結果、インキュベートに伴って土壌全セレンの濃度と形態には、殆ど変化が認められなかった。一方、可溶性セレンの濃度はインキュベートによってわずかな増加を示したが、形態には殆ど変化が認められなかった。これらの結果から、土壌セレンの大部分は極めて安定に存在すること、また今後土壌セレンの形態を検討する場合に風乾土壌を対象に議論できることが明らかになった。 2.土壌中での元素状セレンの生成の有無:無機態セレンは、湛水土壌の示すpHや酸化還元電位で、還元されて元素状セレンに変化することが熱力学的予想される。そこで土壌中での元素状セレンの生成を検討するため、土壌中の元素状セレンをアセトンとクロロホルムで抽出した後セレノシアン酸イオンに変換して定量する方法を組み立てた。この方法を湛水条件に約1週間保ち還元を発達させた土壌に応用したところ、土壌中に元素状セレンの生成を殆ど認めることはできなかった。無機態の4価セレンから元素状セレンへの還元反応の速度が遅いためか、生成した元素状セレンが不安定で分析操作中に分解を受けるためか、これらについてさらに検討が必要である。
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