植物の成長は、細胞分裂と細胞体積の増大に依存する。本研究では、細胞成長過程での液胞の発達に着目した。細胞の大部分を占める液胞の発達が、細胞成長をも支えているからである。つまり、液胞は無機イオン、糖、有機酸などを高濃度集積して膨圧を高め、細胞増大に駆動力を与えている。液胞の発達機構を解析するには、液胞膜の形成発達を知ることが不可欠であると考え、液胞膜ATPaseとピロホスファターゼを液胞膜の指標として、分子構造を解析すると同時に、植物の生育成長過程での酵素量の変動について解析した。 上記2つの酵素は、プロトン(H^+)を液胞内に輸送し液胞を酸性化する酵素である。ATPaseは9種類のサブユニット構成であるのに対し、ピロホスファターゼは73kDaのタンパク質1種で構成される単純構造である。この2種酵素について解析したところ次の点が明らかになった。(1)両酵素は、高等植物だけでなく緑藻、シダ類、コケ類を含む緑色植物に広く分布している。(2)液胞膜当りのATPase量は、同一植物の場合、生育段階、組織によらず比較的一定しているが、ピロホスファターゼは成長の盛んな時期により多く存在し、成長が止まり成熟した細胞には少ない。液胞膜プロトンポンプへの負担が減少する成熟細胞では、ピロホスファターゼの供給が低下しているように観察された。(3)さらに、両酵素と共存する疎水性の高い、液胞膜貫通型タンパク質(23kDa)を発見した。このタンパク質は、N末端アミノ酸配列の比較、H+チャネル阻害剤の結合などの性質から、水あるいは低分子物質の輸送体としての機能が推定された。かつ、分裂直後の細胞の液胞膜には存在せず、細胞成長にともなって増加する。液胞膜の安定化にも寄与している可能性が高い。本研究により、細胞成長にともない液胞もサイズ的に発達するが、同時に膜成分も質的量的に変化することが明らかになった。
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